大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和59年(く)32号 決定 1984年4月25日

少年 R・S(昭四三・九・二八生)

主文

原決定を取り消す。

本件を大阪家庭裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告の趣意は、少年の作成した抗告申立書に記載のとおりであるから、これを引用する。

論旨は、要するに、原決定の処分が重すぎて著しく不当であるから取り消してもらいたい、というものと解される。

そこで、記録を精査し、かつ当審における事実取調の結果をもあわせて検討するに、原決定が認定した本件非行は、少年がそれぞれ級友と共謀し、(1)昭和五八年六月三日の夜、近隣のマンション自転車置場から、所有者不詳の中古ミニ自転車一台(時価五、〇〇〇円相当)を足代りに乗り去り、(2)同年七月二七日の未明、新聞配達に出向く途上、食料品店の店頭に備付けられていた冷凍庫から同店所有のアイスクリーム二個(時価合計八〇円相当。少年が取得したもの、時価三〇円相当。級友が取得したもの、時価五〇円相当。)をとり出して食べたという、いずれも事案としては軽微な各窃盗の非行であるうえ、少年において家庭裁判所の審判を受けるのは今回がはじめてであり、しかも少年には原決定が説示するように、この種事案についての常習性があるわけでもないというのであるから、少年の性格、行状、環境等に看過し難い問題点がみられたとはいえ、本件各非行についても、自らの行状についても、それなりの反省を示している少年に対し、本件非行のゆえに初等少年院に送致するとした原決定の処分は、重すぎて著しく不当であるといわざるをえない。論旨は理由がある。

(原決定書の記載によると、原審としては、不登校の状態にあつた少年につき、本件各非行がみられたためというよりも、むしろ本件の調査中に父母や姉に対するいわゆる家庭内暴力の問題がみられ、これを放置するときは家庭内において殺傷沙汰に至る虞もあると考えられたために、それを理由に、少年院送致の処分こそが少年の健全な育成を期し、少年審判の福祉的機能にも合致するゆえんであると判断したものと思料されるところではあるが、それは本件非行事実(窃盗非行二件)とは異質の、審判に付すべき事由として立件されていない、しかもそれを考慮することによつて処遇が決定的に異なる余罪たる非行(殺傷事犯をする虞があるとの虞犯非行)の点を理由に少年を原決定の処分に付するものであつて、少年審判において非行事実が持つ機能や不告不理の原則などにかんがみ、相当とは思われない。)

よつて、少年法三三条二項、少年審判規則五〇条により、原決定を取り消し、本件を原裁判所である大阪家庭裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 石田登良夫 裁判官 吉田治正 栗原宏武)

〔参照〕原審(大阪家昭五八(少)一二六九七、一一三四九号 昭五九・二・二九決定)

主文

少年を初等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は

一 Aと共謀して、昭和五八年六月三日午後九時ごろ、大阪市平野区○○×丁目×番○○○ハイツ自転車置場において、被害者不詳にかかる中古ミニ自転車一台時価五、〇〇〇円相当を窃盗し

二 Bと共謀して、昭和五八年七月二七日午前三時四〇分頃、大阪市平野区○○○×丁目××番×号○○○ショップ○○店店前に備付けの冷凍庫内より同店経営者C所有のアイスクリーム二個八〇円相当を窃盗したものである。

(適用法案)

刑法二三五条、六〇条

(処分の理由)

少年の非行事実は上記の二件であつて事案も大きくなく、又常習性があるとも認められない。しかし、少年の生活が改善されぬ以上更に罪を犯すおそれは十分ある。しかし、主要な問題は以下に記述する少年の家庭内暴力を中心とする要保護性の強さである。少年は中学二年の三学期から不登校の状態となつたがその原因は、少年の自閉的な性格の大きな偏りが学校生活に対する不適応の状態を生じたものと思われる。そして、家でぶらぶらして不良な友人と夜遊びなどをしているうち本件に及んだものであるが、昭和五八年八月頃、深夜までの夜遊びを心配して捜しに来た父親に、ほうきの柄を持つて脅しにかかり、父親が「叩けるものなら叩いてみろ」と言つたのに対し、実際に父親に暴行を加えた。これを契機に少年の自己主張、欲求発散は家族に対する家庭内暴力へと向うことになる。最初の頃は母親に対する暴力行為が始まり(母親は二、三回と言つている)、同年一二月三〇日には姉に対する暴力行為(少年は否認しているが母親の供述より暴力行為を行つたことは事実と認められる)が始まり、昭和五九年一月一〇日には姉に対し、「顔がはれあがりあざができる程」の暴力行為を行つた。このため一家は極度の緊張状態となり、姉は母親に心中しようと言い出し、眠つてから首をしめてほしいなどと要求する始末で、一家は全員ノイローゼ的な有様となり、その段階で丁度本件が係属していた当庁の担当調査官に家庭の実状を打ち明けて救いを求め、一月一三日より母と姉は少年から逃れるため家を出、ホテル住いをし、一月二〇日少年が鑑別所に収容された後家へ帰つたものである。少年は審判廷で「もう暴力行為は絶対しない。」と言つてはいるが、少年の偏つた性格、従来の経過よりして少年の行状が直ちに改まるとは考えられず、母も姉も肉親から暴行される複雑な精神的ショックと恐怖心に打ちひしがれており、在宅処分とすれば一家は破滅的な状態におちいり、殺傷沙汰の起る可能性すらかなりの程度の確率をもつてあり得ると判断される。このような現状においては最早少年を少年院に収容し、家族と別れた生活に少年を置き、少年に対しては規律ある生活訓練を通じて自閉的、かつ自己中心的な性格の矯正を行い、又中学課程の学習を行わせ、家族に対しては時間の経過により心の傷をいやさせ、少年を迎え入れる用意をさせることが重要と考えられる。なお、少年の性格の偏りはかなり大きいものと考えられるので短期の処遇では改善困難であろう。以上の理由により少年調査票、鑑別結果通知書を参照のうえ、少年法二四条一項三号により主文のとおり決定する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例